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26 <迷走神経麻痺に対する鍼灸治療>

 
古典鍼灸青鳳会 平成26年5月

 

■ 緒  言    
今回の話のタイトルは、実際に私の治療した患者さんに下された病名にしたがって「迷走神経麻痺」としたが、現実には反回神経麻痺という病名のほうが通りがいいようである。
さて、迷走神経麻痺、反回神経麻痺であるが、鍼灸治療院ではあまり例のない病名か もしれない。私も20年の経験の中で、たった一人治療しただけであるが、医師のもとで5ヶ 月何の進展もなかった患者が、鍼灸治療でぐんぐん回復して行った(7ヶ月の経過)のであ るから、その目覚しさは一筆に値すると思う。皆さんも、こうした患者が現れたら、迷わず 挑戦してみることを勧めようと、今回話をさせていただくことにした。

 

Ⅰ. 迷走神経の解剖学的所見

迷走神経(第Ⅹ脳神経)はほかの脳神経とは異なり、頭部領域を支配するだけでなく、頸部・胸腔・腹腔へも下降し、その内臓の間で分枝して神経叢をつくる。この神経は自律神経のうちで最大の副交感神経である。

1. 頭部神経枝・・・味覚線維 : 舌後方の咽頭
耳介枝 : 外耳道背側、耳介前方
2.頸部神経枝・・・咽頭枝 : 咽頭蓋・気管・食道の粘膜の知覚、咽頭蓋 の味蕾
軟口蓋および扁桃窩周囲の筋、咽頭収縮筋の運動
上喉頭神経 : 輪状甲状筋の運動、喉頭粘膜の知覚
反回神経 : 気管と食道の間を、気管枝と食道枝を出しながら上行し、最終枝は下喉頭神経となる。
輪状甲状筋以外の咽頭筋の運動、咽頭粘膜の知覚
頸心臓枝 : 心臓へ及び心臓神経叢の副交感神経節に終る。この神経を刺激すると、血圧降下がおこる。

3.胸腹部神経枝・・・まとまった神経としての性格をなくし、肺神経叢、食道神経叢、前胃 枝、後胃枝、肝枝、腹腔枝、腎枝に分かれる。 

 

Ⅱ.西医学的に見た迷走神経麻痺

甲状腺がん、肺がん、食道がんなど、神経走行領域の悪性病変や、その切除術後に 多い。大動脈瘤、気管挿管、上気道感染なども原因となる。
片側麻痺では、嗄声改善のため声帯内注入術、甲状軟骨形成術などで声帯の内方移動を行う。
両側麻痺では呼吸困難を呈するので、気管切開術や声門拡大術を検討する。

 

Ⅲ. 臨 床 上 の 症 状

上で見たように、迷走神経は頭部から胸腹部にまでひろく走行する神経なので、麻痺し た場合は様々な症状を呈する。
私の治療した感謝の場合では、嚥下障碍、発声障碍、唾液過多、右上肢挙上障碍、味覚障碍の五つの症状があった。さいわいに、胃や肝などの腹部症状は現れていなかったので、ここでは上の五症状についてのみ説明する。
ちなみにこの患者さんは、50才、男性、塾講師である。

1.嚥下障碍
咽頭、咽喉、食道の運動筋の支配神経が麻痺しているのであるから、食餌の飲み込みに困難がともなう。患者は夫人に流動食を作ってもらって食べていた。固形食を食べた場合には、飲み込めないだけでなく、気管支に入ることがあり(誤嚥)、危険である。
このため当方への初診時は、体重が70kg から60kg に痩せていた。

2.発声障碍
患側の声帯が弛緩するため、発声に困難がともなう。患者の職業が塾の講師であったため、授業には拡声器をもって臨んでいた。
また口蓋帆の所見は、患側が弛緩し、健側に引かれるという、特徴のある所見となる。

3.味覚障碍
ものの味がよく分からない。ただし甘味、辛味、酸味などどんな味が分からないのかをたずねても、よく分からないということであった。

4.唾液過多
唾液の分泌量が、通常と比較して増えている。また飲み込もうとすると、誤嚥する恐れがあるので、フタ付の容器を携行して、それに唾液を吐くようにしている。治療中も何度となく唾液を吐かなくてはならない。

5.右上肢挙上障碍
肩周囲の筋を支配する神経の麻痺も同時にあったと思われる。このため、僧帽筋、三角筋、棘上筋、烏口腕筋、大胸筋などの運動がおこなわれず、肩関節の屈曲ができない状態であった。

 

Ⅳ. 治 療 の 経 過

本症の本態は神経麻痺なので、治療の基本は補法である。しかし迷走神経自体に刺鍼することはできないので、患部に刺鍼することによって、神経の働きを賦活させることになる。

<第1~5診>3月30日治療開始 1週2回の治療
早期に解決しなければならないのは、①嚥下障碍と②発声障碍である。
胸部の圧痛点を目標にして、熱めの灸をすえるとよいことが分ってきたので、これを眼目にすることにした。
さらにこれを、厥陰兪-霊墟、膏肓-膺窓の打ち抜きの灸にして行なうようにしたところ、①嚥下については大きく改善された。
②発声については、後頸部から細めの鍼を深刺して、喉全体に響かせるようにし、また前頸部からは声帯の高さを確認して、置鍼・隔物灸を施す。
④右上肢挙上障碍については、条口を取って5番の金鍼を用いることで対応。

<第6~10診> 1週2回の治療
③唾液過多については、顎下腺と舌下腺唾液腺に見当をつけて置鍼し隔物灸で温めた。
総じて、全ての症状に対する効果が上がってきており、患者・術者ともに何とかなるのではないか、という希望が見えてきた時期。

【唾液腺についての考察】 a.顎下腺、b.舌下腺は顔面神経支配であり、粘液性・將液性)唾液の混合腺である。
c.耳下腺は下咽神経支配であり、將液性唾液の分泌腺である。
この患者さんの場合、粘液性の唾液が溢れるという話だったので、a.b.両腺の問題であることが推察できる。

<第11~15診>

①嚥下、②発声については、第8診(4/23)の頃には誤嚥が少なくなり、12診(5/25)の頃には声量が上がったという。が、まだ授業に拡声器は必要。目視してみると、右の口蓋帆はまだ開いたまま閉じていない。
③唾液量は、ずいぶん減ってきたが、夕方になるにつれて吐出量が多くなる。
④上肢の挙上障碍については、この頃までには問題がなくなっていた。

<第16~20診>
当初に比べて、声に張りがでてきた。
発声の改善には、肩周囲の筋肉がほぐれていると声も出しやすい、という患者さんの指摘もあって、マッサージも含めて様々な方法をとりいれる。

<第21~25診> 治療ペースは週に1度
①、②ようやく、時々拡声器を使用する程度になった。声にも一段と張りが出てきた。
③唾液の吐出量は半分程度になっているが、相変わらず携帯容器が必要。
止めていた飲酒も再開して、体重も増えてきた。

<第26~30診>  治療ペースは2週に1度
10月になって、ようやく拡声器も不要になった。
唾液の吐出量も減り、携帯容器も不要になった。
右斜角筋が痛み、これが最も気になる。
以上の治療開始から7ヶ月を経て、ほぼ治癒ということになった。

 


Ⅴ.素問・靈樞にみる迷走神経麻痺

 素問・靈樞の中を探しても、迷走神経麻痺にあたる記述は見つからないのである。
ウィルスによる上気道感染なのだから、間違いなく風の証である。風邪による咽喉麻痺、四支解堕というものも、当然のことながら当時にもあったと思われる。にもかかわらず、素問の風論にすら、その記載がないというのは、かつてあった記述が亡失したということだろうか。
一つの特質として、中国の成書というものは、残されている文字は、たとえ間違った文字であっても片言節句にいたるまで大事に残しておくが、新しく付け加えるということはない。それをすれば、古来より伝わるものが失われるからである。素問も靈樞も、間違った内容や記述が、そのままに書かれてある。成書とは、内容の正しさに価値があるのではなく、古来の文字を後世に伝えるために存在しているのである。私たちは、その点を誤解しないように読んで、自分たちに有意であるようにその意義を汲み取らなければならない。
いずれにしても、現在われわれが手にしている素問も靈樞も、病について網羅したものではないようである。
唯一近いものが、評熱論にある「勞風」という条なので、まずはこれを手がかりにすることとしたい。
そのほかには靈樞の憂恚無言に、咽頭・咽喉についての、当時の考えが詳しく述べられているので、これを取り上げたい。

素問・評熱論第三十三 ・・・勞風

帝曰勞風爲病何如。■
(ギ 止+支) 伯曰、勞風法 (ことわり=理)在肺下。其爲病也、使人強上瞑視 (上が強張って、目がよく見えない) 、唾出若涕、惡風而振寒。此爲勞風之病。

王注・・・勞に從って風の生ずる故に勞風と曰う。勞とは腎の勞を謂うなり。腎脈は腎 より上り、肝、鬲を貫き、肺中に入る。故に腎勞風、生じて上り、肺下に居するなり。

帝曰く、勞風の病を爲すや何如。■(ギ 止+支)伯曰く、勞風の法(ことわり)は肺下に在り。その病を爲す や、人をして強上、瞑視せしめ、唾は涕(はなみず)のごとく出、風を惡みて振寒す。これを 勞風の病と爲す。



帝曰治之奈何。■ (ギ 止+支) 伯曰以救俛仰。巨陽引精者三日、中年者五日、不精 者七日。■ (ガイ 亥+欠)出青黄涕、其状如膿、大如弾丸、從口中若鼻中出。不出則傷肺、傷肺則死也。

王注・・・「救」とは猶お「止める」のごとし。俛仰とは屈伸を謂うなり。動作の屈伸を止めて勞氣せしめず、滋の氣に蔓(み)たしめるべし。

帝曰くこれを治すること奈何。■(ギ 止+支)伯曰く、以て救(とど)めて(=労作をやめさせて)俛仰 す(=屈伸運動をさせる)。巨陽の精を引く者は三日、中年は五日、精ならざるは七日なり。
(ガイ 亥+欠)し、 青黄の涕(はなうみ)出で、その状、膿のごとく、大なるは弾丸のごとし。口中從りして鼻中に若(い た)って出ずる。出でざれば則ち肺を傷る、肺を傷れば則ち死するなり。


靈樞・憂恚無言第六十九

黄帝問於少師曰、人之卒然憂恚而言無音者、何道之塞、何氣出行、使音不彰、願聞其方。
少師答曰、咽喉者水穀之道也、
咽イン=むせぶ 喉コウ=喉のなる音。咽・喉ともに、狭隘の要衝の意がある。

喉■ (リョウ 口+龍)者氣之所以上下者也、 喉の形態からのイメージか?
会厭者音聲之戸也、 ※1 厭=おしつぶす・・・喉には狭隘の場所のイメージがあるものと推量される。後述の≪喉字解≫を参照 
→喉頭蓋か、あるいは声帯を指すのか不明だが、後条を見れば声帯であることが分かる

口脣者音聲之扇也、
舌者音聲之機也、
機=からくり。機械有れば機事有り、機事有れば機心有り。〔荘子〕
懸雍垂者聲之關也、  懸雍垂=口蓋帆と口蓋垂 雍=つまる、さえぎる
頏■ (ソウ 桑+頁)者分氣之所泄也、 (ソウ 桑+頁)=ひたい、或いは頬だが、この場合は? 後条を見ると咽頭鼻部を指していることが分る。  分氣→息が鼻腔へと分かれる※2
横骨者神氣所使主發舌者也。  横骨=張介賓 喉の上の軟骨なり。
(横骨者神氣所主、使舌發者也)右の一条は上のようになるべきではないか
故人之鼻洞涕 (この場合、鼻水) 出不収者頏 (ソウ 桑+頁) (=鼻腔から咽頭への咽頭鼻部) 不開、分氣失也。
是故厭
(声帯) 小而疾薄則發氣疾 (はやい) 、其開闔利、其出氣易。 ※3
其厭大而厚則開闔難、其氣出遲。故重言 (言葉が重い) 也。
人卒然無音者寒氣客干厭
(声帯) 、則厭不能發。發不能、下至 (次には) 其開闔不致、故無音。           厭・・・發とは、ぴんと張って声帯が震えることだが、開闔とは開閉することであり、声帯の生理とは矛盾している。当時の声帯の機構に対する理解の限界であろうか。
黄帝曰刺之奈何。■ (ギ 止+支) 伯曰足之少陰上繋於舌、絡於横骨 (甲状軟骨) 、終於会 厭※?。兩 (ふたつながら) 寫其血脈、濁氣乃辟 (のぞく) 。会厭之脈上絡任脈、取之天突、其厭乃發也。

※? この流注の順序は、明らかに誤謬であろう ※1 会厭 張介賓 会厭は喉の間の薄膜なり。周圍は会合し、上は懸雍 (口蓋帆) に連なる。咽喉の食、息の道のもって亂れざるは、その厭を遮ぎるに頼るを得てなり。
       → 薄膜・・・声帯 気管を遮る・・・喉頭蓋  どちらを指しているのか?

※2 張介賓  (ソウ 桑+頁)の前に竅(あな)あり、息は鼻に通ず。
    張志聡 頏
(ソウ 桑+頁) (ガク 愕のりっしんべんを月に替える)上の竅。口鼻の氣、および涕、唾ここより相通ず。

靈樞・根結5 陽明、根干
(レイ 蠣から虫を除く)兌、結干 (ソウ 桑+頁)大。 (ソウ 桑+頁)大者鉗耳也。
→馬元台  頭維穴なり。
  張介賓 今いう
(ソウ 桑+頁)大とは、意うに、頂 (ソウ 桑+頁)の上の大迎穴なり。
  張志聡 
(ソウ 桑+頁)大とは頏 (ソウ 桑+頁)なり。
  多岐元簡 
氏いう、 (ソウ 桑+頁)大とは額角、入髪際の頭維二穴を謂うなり。それ以って、耳上を鉗束す。故に鉗耳と名づくるなり。馬を知りて楼説に依れば、今はこれに從うべし。→頭維穴  (ソウ 桑+頁)は額。


(ソウ 桑+頁)字解》
(ソウ 桑+頁) ソウ ひたい 声符は桑 ソウ。説文に「楷なり」とあり、楷カクは額。「方言」に中夏では楷、東斉では洶というとする。ひたいと桑にどのような関係があるものかは不明。

【大漢和】
① 額 ②頭、頂 
③ 頬・・・河目隆
(ソウ 桑+頁) 〔孔子家語-困誓〕
④ おじぎをする

用例-
(ソウ 桑+頁)子ソウシ 北方人の語でのどを言う。として、のどに関する用例もある。
「世人、竹木、牙骨の類を以って叫子を爲る。人の喉中に置けば、能く人をして言わしむ。これを
(ソウ 桑+頁)叫子と謂う」として、ある訴訟で訴えられた声が出ないの者のために (ソウ 桑+頁)叫子を作ってやった者があり、その結果、粗々ではあったが一、二の言うことは判別でき、冤を免れた話を〔夢溪筆談・権智〕から引いている。
夢溪筆談(ぼうけいひつだん)は北宋・沈括 (しんかつ1030~94)による随筆集。

桑は古代では大木としてあったようで、低木として知られるようになったのは養蚕のた めに、人為的に用いられるようになってから。養蚕自体は、殷代から行われていた。古 くから桑林は歌垣の場であり、晋公重耳が斉に亡命している時、斉からの脱出計画 を、桑の葉摘みの女が盗み聞きしていたのも桑の木の上からであるが、これはこの女の 重耳に寄せる思いの暗喩であろう。この桑の葉摘みの女は、重耳が斉にきてから娶った 妻の侍女であり、この後、侍女は主である重耳の妻に殺され、妻によって重耳は酔って いる間に斉を出されるのである。

桑に関する語に「滄桑」の語がある〔太平広記 七 神仙伝〕。桑田が三度海になりか わる話であるが、桑と滄(大海原)とは、音とともに通底するものがあったのではないか。額、頬、喉はともに首上にあって広々した部分であり、字はひろびろとしたイメー ジに関連していると思われる。


※3 藏は小さいほうが安定している・・・本藏四十七
心小則安、邪弗能傷、易傷以憂。心大則憂不能傷、易傷干邪。
肺小則少飲、不病喘喝。肺大則多飲、善病胸痺喉痺逆氣。
肝小則藏安、無脇下之病。肝大則逼(せまる)胃、迫咽。
脾小則藏安、難傷干邪也。脾大則苦湊(ふさがって)次(ビョウ わきばら)而痛、不能疾行。
腎小則藏安難傷。腎大則善病腰痛、不可以俛仰、易傷以邪。



靈樞・經脈第十  ・・・絡穴

手少陰之別、名曰通里、去腕一寸半、別走陽明、循經入干心中、繋舌 本、屬目系。其實則支膈、虚則不能言。取之掌後一寸、別走太陽也。

 

《喉字解》

喉  コウ 声符は侯。「説文」に「咽なり」とあり、咽喉とつづけて用いる。咽は咽(むせ)ぶ声で、喉は咽喉のなる声を写した擬声的な語。
 一方で、狭く、また切要の場所であるから、その地を制することを「咽喉を扼す」という言い方をする。また宰相の任務として王の喉舌となることがあり、「喉舌の官」として宰相を言うことがある。
夫肝者中之将也。取決於膽、咽爲之使。(それ肝は中の将なり。決を膽に取り、咽はこの使たり)【素問・奇病論第四十七】

《咽字解》

咽 イン 声符は因。「説文」に「?なり」とある。?は縊(くび)れる、隘(せま)いの意があり、咽は咽(むせ)ぶ。むせぶは、同時に噎(エツ=饐)と書き、えづくに通じる。

《亢字解》

亢 コウ  「説文」に「人の頸なり」とし、胡脈と呼ばれる動脈部分をふくむ頸の形。
絞首することを「亢を絶つ」「亢を■(エキ 手偏+益 くびる」、また首をあげて抗することを抵抗という。


※胡脈・・・胡人に顕著に見られる喉仏と、その左右の胸鎖乳突筋のことであろう。


《嚥字解》

嚥 エン  釈名※に「物を嚥むなり。・・・頤下、纓(頸)理(=頸の筋)の下に在るなり」とある。咽が名詞的であるのに対して、嚥は動詞的な語である。


※釈名・・・漢の劉殃の選。漢字を二十七類に分ち、訓義を加えてある。同声・または類似声によって義を求める音義説が多い。


■ 以下には、風邪と係わりはないが、「不食、不飲」「唾液過多」「四支解堕」に関する条文を引 いておく

●不食、不飲

素問・玉機真藏論第十九 ・・・五虚五實のうち、それぞれ生死を決めるもの
脈細、皮寒、氣少、泄利前後、飲食不入、此謂五虚。・・・漿粥入胃、泄注止、則虚者活。

素問・評熱論第三十三
 ・・・胃(カン 月+完)
腹中鳴者病本於胃也。薄脾則煩、不能食。食不下者胃渚(カン 月+完)也。

素問・刺瘧論第三十六 ・・・胃瘧
胃瘧者令人且(=あさ)病也。善飢而不能食、食而支滿、腹大。刺足陽明太陰
横脈、出血。
王冰注・・・横脈謂足内踝前斜過大脈、則太陰之經脈也。=商丘穴

素問・風論第四十二 ・・・胃風
胃風之状、頸多汗、惡風、食飲不下、鬲塞不通。腹善滿、失衣則(シン 月+真)脹。食寒則泄。診形、痩而腹大。

素問・奇病論第四十七 ・・・腎風
(ギ 止+支) 伯曰、病生在腎、名爲腎風。腎風而不能食、善驚、驚巳心氣痿者死。

● 唾液過多

靈樞・邪氣藏府病形第四
 ・・・膽を病んで唾液過多となる
膽病者善太息、口苦嘔宿汁、心下澹澹恐、人將捕之。(エキ 口+益 のど)(カイ 口+介)(カイ 口+介)然、數唾、在足少陽之本末、亦視其脈之陷下者灸之、其感熱者取陽陵泉。

素問・繆刺論第六十三 ・・・咽が腫れて唾を飲み込めない
(エキ 口+益 のど)中腫、不能内唾、時不能出唾者刺然骨之前、出血、立巳。左刺右、右刺左。



● 四支解堕

素問・痺論第四十三

脾痺者四支解堕、發(ガイ 亥+欠)、嘔汁上、爲大塞。

素問・太陰陽明論第二十九
帝曰脾病而四支不用何也。 ■
(ギ 止+支) 伯曰、四支皆稟(うける)氣於胃而不得至經 (太素では徑至)。必因於脾、乃得稟也。今脾病不能爲胃行其津液、四支不得稟水穀氣、日以衰、脈道不利、筋骨肌肉皆無氣以生、故不用焉。

四支はみな、胃から氣を稟けているが、その気が經脈にまで至っているとはかぎらない。かならず脾によって氣を稟けているのである。今、脾が病んで胃に津液をめぐらせることができないので、四支も水穀の氣を稟けることができない。

素問・調經論第六十二
(ギ 止+支)伯曰、形有餘則腹脹、(ケイ 經の糸偏をさんずいに替える)溲不利不足則四支不用。

 

Ⅵ. 鍼 灸 治 療

まずは嚥下障碍と発声障害に対する刺鍼法として、膏肓に対する刺鍼法を掲げる。
膏肓の取穴は、教科書によれば第四肋骨の下際、TH4,5間の外方3寸ということになっているが、実際には患者の肩甲骨の後側を脊柱に向かって斜めに走り下っている僧帽筋の下縁に刺鍼すると効果が高い。
実際にここを狙って刺鍼すると、肩上部から時には後頭部にまで広範な響きが得られる。
また内側に対しては、胸腔内部深くまで響きを及ぼすことができる。
僧帽筋下縁を目標とするのであるから、患者によっては神堂穴となる場合もある。

また、胸腔内にさらに強い刺激を与えるため、膏肓と膺窓穴から通し灸を行うのも効果がある。

また斜角筋の寛解については、内庭・陽谿を併せて用いるのが効果的。

(ギ 止+支) 伯曰、此風根也。其氣溢於大腸而著於肓。肓之原在臍下。〔素問・腹中論40、奇病論47〕 右の一条があり、膏肓の治療は関元(臍下)でできることが記されている(逆もまた可)。これは臨床上でも、しばしば行われる取穴である。